『エピデミック』2008年01月05日

amazonで予約購入し、一気に読了。おもしろかった。

房総半島の先端のとある田舎町で未曾有の感染症が発生する。主人公の科学者が、いかに感染ルートを特定し、感染の広がるのをくい止めるか、というストーリー。

感染源を追いつめる科学者の武器は『フィールド疫学』。現場を歩いて拾い上げたさまざまな事象を感染源として仮説を立て、統計的手法でその仮説の検証、棄却を繰り返しながら真実に近づいていく。その過程は、地味だけどミステリを読むようなスリルがある。著者の川端裕人さんいわく『疫学小説』なのだそうだ。まさに疫学の考え方、おもしろさを啓蒙するような小説だと思う。

登場人物が科学者たち、脇役、みな個性的でキャラが立っているのがいい。「確率密度の雲の中で持ちこたえる」とか「人間は意味の真空状態を嫌う」とか、なかなかメモしておきたいセリフがたくさん出てくる。どうも最近、科学者は「ヘンコで、なにをやってるのかわからなくて、裏ではなんか悪いことをしている」ように描かれがちだ。そんな中で、川端さんはきちんとした取材に基づいて、科学者をかっこうよく魅力的に小説に書いてくれる数少ない作家さんだと思う。

しかし、帯に書かれたハリウッド映画のような宣伝文句はもうちょっとなんとかならないのかしらね。

上野動物園2008年01月14日

2008年初の動物園はやはり上野動物園。日曜日の昨日、行ってきた。しかし、寒かった。気温7〜8度。午前中は曇っていたので、さらに寒い。昼からは天気がよくなったが、強い北風が吹いており、やはり寒かった。

サル山では2〜3匹以上のサルがひとかまりになってくっついて饅頭のようになっていた。

Ueno zoo, Tokyo, Japan

こちらは、重なって毛繕いをしていて、サルの鎖のようだ。

Ueno zoo, Tokyo, Japan

ヘビクイワシは、かなり美人の鳥(頭の羽がペンの羽に似ているので、英語ではsecretary birdというらしい。美人秘書だ)だが、リンク先を見ても分かる通り、全体のバランスはなんか変だ。スパッツをはいたおばさんみたいな体型である。閉園時間が近くなると、なぜか檻の中を右へ左へせわしなく動き回っていた。閉園時間が過ぎてから餌をもらうことになっているのかもしれない。こんな美人な顔をして、食べるものと言えば、鶏頭、シマヘビだそうだ。

Ueno zoo, Tokyo, Japan

寒かったせいか、全体的に動物の活動レベルが下がっていたように思う。キリンもナマケモノも外へ出ていなかったし、プレーリードッグもみんな穴の中に入ったきりで、1、2匹しか観られなかった。3連休の真ん中の休みにしては、客も少なかったように思う。

『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ—ハイテク海洋動物学への招待』2008年01月28日

読了。

著者はデータロガーを駆使して、ウミガメやペンギンなど潜水する生物の行動や環境を研究する海洋生物学者である。データロガーとは、水温、水深、加速度、体温などを測定する計測器類とそれらのデータを経時的に記録するデジタルレコーダを小さなパッケージにしたものである。これを生物の背中に取り付けて潜水させ、再び陸に上がってきたときに回収し、得られたデータを解析することによって、これまで明らかになっていなかった生物の生態をうかがい知ることができる。本書はその研究の内容や、それにまつわるエピソードが書かれている。

著者はペンギンやウェッデルアザラシなど、南極に生息する生物を研究対象にしており、実際に南極に何度も赴いて現地の研究チームに参加している。そのときの経験が直接研究とは関係のないこぼれ話として紹介されているのだが、南極での立ち小便の仕方とか、日本と欧米の極地研究に対する考え方の違いとか、かなりオモシロイ。もちろん研究の内容もかなり興味深いものである。

一連の研究成果を述べた後、最終章で著者は自分の研究分野の魅力について改めて語っている。

ハイテクを駆使しているといえども野外生物を相手にしているので、いつも狙ったデータが取得できるとは限らない。実験室での研究と違い、うまくいかなかったからと言って、少しパラメータを変えて、実験をやり直しするようなことはできない。この本のいいところは、そういううまくいかなかった例も紹介している点である。得られたデータを別の側面から見ることによって、新発見、それも小中学校の教科書を書き換えるような大発見に繋がることもある。

最近は生物学といえども分子生物学に代表されるような仮説検証型の研究ばかりもてはやされて、筆者が携わっているような分野はないがしろにされがちである。ところが陸上の動物ならいざ知らず、従来の「観察」という手法が適用できなかった水中の動物に関してはまだまだ知られていない生物の生態や現象が多く残っている。データロガーが開発されて初めてそれらの謎を解明することが可能になってきたのである。

データロガーは、種々の高性能の電子計測器類を小さくコンパクトにまとめたもので、その開発は日本の技術が得意とするところである。しかし、そのような計測機器を開発するには、技術力だけではダメで、現場の研究者と歩調を合わせて、アプリケーションをともに開拓していく必要があると痛切に感じた。