ポストコロナのSF2022年08月11日

図書館で最初に「ポストコロナのSF」という本を借りてきたのはもう3か月以上前のことになる。貸出延長と借り換えを繰り返して、時間がかかったが、やっと先日読み終えた。
https://www.amazon.co.jp/dp/4150314810/

日本SF作家クラブ編で、現役で活躍している19名のSF小説家が、コロナ禍やパンデミックを題材に書きおろした短編作品を集めたものである。

最初は小川一水と藤井太洋の作品目当てで借りたのだが、せっかくなので、全作品を読んだ。途中で放り出したくなるほど退屈で読むのが苦痛な作品もあり、存外に時間がかかってしまった。

小川一水の作品は、やはり出色の面白さで、小川一水らしいっちゃあ小川一水らしい宇宙のお仕事ものであった。

また、初めて聞いた名前だったが、柞刈湯葉という作家の「献身者たち」という作品がよかった。ポストコロナにアフリカの紛争地域で医療を担う国境なき医師団の医師が主人公の話だ。紛争地域の描写も、少し先の未来の設定もとてもリアルだが、筆致がこなれていてとても読みやすい。シニカルで現実主義者の主人公が魅力的だ。背景のテーマは医療格差を扱ったもので、短編ながら重くずっしりした読後感。他とは一線を画す才能を感じた。

気になったので、図書館で柞刈湯葉の他の著作を借りようと検索したが「未来職安」という4年前の作品が一冊あるだけだった。早速借りてみたが、こちらも面白かった。ライトノベル風だけど、AIがほとんどの労働を肩代わりする一方、人間に残された仕事は万が一の事故の時に責任を取って辞めることだけ、という設定もユニークだし、社会風刺が効いている。主人公がやはりちょっとシニカルなのがまたよかった。

柞刈湯葉を知ることができただけで、ポストコロナのSFを読んだ価値が十分あった。今年の夏は柞刈湯葉の全作品読破をめざそう。今、最新刊の「まず牛を玉とします。」を読んだところ。