『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ—ハイテク海洋動物学への招待』2008年01月28日

読了。

著者はデータロガーを駆使して、ウミガメやペンギンなど潜水する生物の行動や環境を研究する海洋生物学者である。データロガーとは、水温、水深、加速度、体温などを測定する計測器類とそれらのデータを経時的に記録するデジタルレコーダを小さなパッケージにしたものである。これを生物の背中に取り付けて潜水させ、再び陸に上がってきたときに回収し、得られたデータを解析することによって、これまで明らかになっていなかった生物の生態をうかがい知ることができる。本書はその研究の内容や、それにまつわるエピソードが書かれている。

著者はペンギンやウェッデルアザラシなど、南極に生息する生物を研究対象にしており、実際に南極に何度も赴いて現地の研究チームに参加している。そのときの経験が直接研究とは関係のないこぼれ話として紹介されているのだが、南極での立ち小便の仕方とか、日本と欧米の極地研究に対する考え方の違いとか、かなりオモシロイ。もちろん研究の内容もかなり興味深いものである。

一連の研究成果を述べた後、最終章で著者は自分の研究分野の魅力について改めて語っている。

ハイテクを駆使しているといえども野外生物を相手にしているので、いつも狙ったデータが取得できるとは限らない。実験室での研究と違い、うまくいかなかったからと言って、少しパラメータを変えて、実験をやり直しするようなことはできない。この本のいいところは、そういううまくいかなかった例も紹介している点である。得られたデータを別の側面から見ることによって、新発見、それも小中学校の教科書を書き換えるような大発見に繋がることもある。

最近は生物学といえども分子生物学に代表されるような仮説検証型の研究ばかりもてはやされて、筆者が携わっているような分野はないがしろにされがちである。ところが陸上の動物ならいざ知らず、従来の「観察」という手法が適用できなかった水中の動物に関してはまだまだ知られていない生物の生態や現象が多く残っている。データロガーが開発されて初めてそれらの謎を解明することが可能になってきたのである。

データロガーは、種々の高性能の電子計測器類を小さくコンパクトにまとめたもので、その開発は日本の技術が得意とするところである。しかし、そのような計測機器を開発するには、技術力だけではダメで、現場の研究者と歩調を合わせて、アプリケーションをともに開拓していく必要があると痛切に感じた。

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